空気冷凍サイクル解析
目的
標準的な二段圧縮空気冷凍サイクルの過渡解析を行なった例を示します。この冷凍サイクルは、遠心式圧縮機、膨張タービン、熱交換器、冷却チャンバーおよびその中を流れる乾燥空気のクローズドサイクルで構成されています。主な適用分野は食品の冷蔵設備などです。低段圧縮機はPIDコントローラで制御されており、サージングを起こさないような設計・運転が必要です。二段圧縮空気冷凍サイクルの模式図を図 1に示します。
モデル化
冷凍サイクルの簡易的な計算プログラムでは熱収支等の計算しかできないため、質量保存則や運動量保存則、圧力損失、熱負荷、臨界点付近等の計算を扱うことができません。また、近年では温暖化防止や節電を目的として圧縮機のインバータ化が進み、定格運転等の静特性だけでなく、温度や圧力の変動を伴う動特性のシミュレーションが必要とされています。そこで、PID制御やシナリオ設定などで動特性解析を行なうことができるFlownexを用いてモデル化しました。二段圧縮空気冷凍サイクルのモデルを図 2に示します。
①圧縮機とタービン
低段・高段圧縮機と膨張タービンの仕様はそれぞれのチャートによって定義されています。これらのターボ機械のチャートは二つの性能曲線で表されます。低段圧縮機の例を図 3と図 4に示します。
これらの性能曲線についてはFlownexのライブラリマニュアルに記載されています。
低段圧縮機は外部モーターによって駆動します。モーターの初期の回転速度は21,600rpmです。低段圧縮機の最大回転速度は27,000rpmに設定されています。高段圧縮機と膨張タービンは共通のシャフトで接続されており、高段圧縮機は膨張タービンの回転によって駆動します。
②熱交換器
中間冷却器と空気予冷器の二次側(低温側)には冷却水が流れています。中間冷却器、空気予冷器およびレキュペレータの仕様が既知の場合は、熱伝導率、伝熱面積等のパラメータ、または図 5のようなチャートを設定します。未知の場合は最適化ツールを使用して設定することができます。
③PIDコントローラ
このシミュレーションでは、PIDコントローラによって冷却チャンバーの出口温度と低段圧縮機の回転速度を調節しています。過渡解析を実行しながら、図 6の画面でPIDのチューニングを行なうことができます。
④冷却チャンバー
冷却チャンバーの初期の熱負荷は31.42kWです。熱負荷はシナリオ設定によって変動します。冷却チャンバーの出口温度は-50℃、絶対圧力は100kPaです。この冷却チャンバーを熱交換器に置き換えてブライン回路を追加することもできます。
過渡解析
過渡解析のシナリオを以下に示します。
(1) シミュレーション開始から20秒後、冷却チャンバーの熱負荷が40kWに増加します。
(2) シミュレーション開始から40秒後、冷却チャンバーの熱負荷が20kWに減少します。
結果と考察
このモデルでは、過渡解析を実行する前に定常解析によって初期値を設定します。図 7を見ると、冷却チャンバーの熱負荷は31.42kWから始まり、20秒後に40kWに増加して40秒後に20kWに減少しています。
図 9は冷却チャンバーの出口温度の変化を示すグラフです。定常解析後の出口温度は-40℃以下になります。
10秒後にPIDコントローラのスイッチがONになり、低段圧縮機の回転速度が上昇することによって出口温度は-50℃まで低下します(図 8)。その後、冷却チャンバーの熱負荷が増加して一時的に出口温度が上昇しますが、再び-50℃になるようにPIDコントローラが低段圧縮機の回転速度を調節します。次に、冷却チャンバーの熱負荷が20kWに減少しますが、PIDコントローラが低段圧縮機の回転速度を調節している間は一時的に出口温度が低下しています(図 9)。
まとめ
この事例では、Flownexを用いて二段圧縮空気冷凍サイクルのシミュレーションを行ないました。このモデルには熱交換器の熱慣性とターボ機械の回転速度の慣性が含まれており、それらがPIDコントローラによって制御されていることを確認しました。また、低段圧縮機の動作点がサージラインから常に離れていることを確認しました(図 10)。
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