こんがりネズミ2
By M.Sato
概要
この記事では、輻射および自然対流の効果を考慮した加熱炉について、 以前に紹介したこんがりネズミ の記事と同じモデルを使用して、ANSYS Fluent で実施に解析する方法を紹介します。
👉 本記事で使用しているデータを入手したい場合は、弊社に問合せください。
計算モデル
加熱炉内部にアルミ製の被加熱物(ねずみ置物)を置き、加熱後の最終温度分布を計算します。 計算モデルを以下に示します。 炉内部では空気温度差に伴い、熱対流が生じているとします。
モデル

固体部の表現については、天板、底板、ねずみ置物は実際には肉厚を持っていますが、 メッシュ分割を行わずに計算モデル(シェル熱伝導モデル)として扱います。
また天板、底板の境界には、mixed境界条件を適用します。 これは熱フラックスを熱伝達と熱輻射の和として表現するモデルになります(下図参照)。
モデル2

メッシュ分割
解析で使用するメッシュを示します。個体壁面近傍が細かくなるようにしています。
メッシュ全体

メッシュ(y=0面)

メッシュ(マウス表面)

メッシュの読み込み
オプションとして 3dモデル、および 倍精度(double precision)を選択して fluentを起動します。
file -> 読み込み -> mesh
を選び、ファイル選択フォームを表示します。
メッシュファイルの拡張子が"gz"の場合、ファイル一覧に表示されないので “Files of type"を “All Mesh Files"に変更します。 その後、 mesh.msh.gzを選択し、OKボタンを押します。
ファイル選択フォーム

fluentのGUI画面の一番上にリボンが表示されています。
ここで “ドメイン” をクリックして、一番左上の ”表示” ボタンを押します。
メッシュ表示の入力フォームが表示されるので
- オプション : edge
- エッジタイプ : outline
- サーフェス : 全てを選択
として表示ボタンを押します。
メッシュ表示フォーム

以下のような形状図が表示されることを確認します。
エッジ外形線

モデルの設定
アウトラインビューから、粘性を右クリックし
- 層流
を選択します。
アウトラインビュー

粘性

同様にアウトラインビューから輻射を右クリックし、
- discrete ordinates (DO)
のモデルを選択します。
設定フォームが表示されますが、デフォルトのままでOKボタンを押します。
輻射

物性値の設定
炉内部には空気が入っています。 炉内での温度差により熱対流が生じると考えられます。 ここでは空気を理想気体モデルとして指定し、密度変化をモデル化します。
固体材料については、天板、底板はスチールで構成されているため、スチール物性値を追加します。
物性

airを選択し、“作成/編集"ボタンを押します。
air物性値設定フォームが表示されるので、密度を “ideal-gas"と指定して変更/作成ボタンを押します。
空気物性

セルゾーン条件
デフォルトのままとします。
境界条件
タスクページに境界ゾーンを表示します。
境界条件

ネズミ表面壁(wall-mouse)
wall-mouseを選択し、編集ボタンを押します。“熱”タブをクリックします。
”熱的条件”から”熱流束”を選択し、
- 熱流束を0[W/m2]
とします。
これはねずみ内部の空洞の表面を断熱境界とすることを意味します。
ねずみ壁面熱

また、“シェル熱伝導”にチェックを入れて、右側の”編集”ボタンをします。
新しくシェル熱伝導設定フォームが表示されるので
- 厚さを0.001[m]
- 物質をalminium(デフォルト)
と設定します。
ねずみ壁面シェル熱伝導

次に"輻射"タブをクリックします。
- 内部放射率を 0.7
と設定し適用ボタンを押します。
ねずみ壁面輻射

側面境界(wall-side)
wall-sideを選択し、編集ボタンを押します。 “熱”タブをクリックします。 ”熱的条件”から”温度”を選択し、
- 指定温度を500[K]
とします。
側面熱

次に"輻射"タブをクリックします。
- 内部放射率を 0.7
と設定し適用ボタンを押します。
側面輻射

上面境界(wall-top)
wall-topを選択し、編集ボタンを押します。
“熱”タブをクリックします。
”熱的条件”から”混合”を選択します。
- 熱伝達係数 : 10 [W/m2/K]
- 自由流れ温度 : 300 [K]
- 外部放射率 : 0.7
- 外部輻射温度 : 300 [K]
上面熱

また、“シェル熱伝導”にチェックを入れて、右側の”編集”ボタンをします。
新しくシェル熱伝導設定フォームが表示されるので
- 厚さを0.005[m]
- 物質をsteel
と設定します。
上面シェル熱伝導

次に"輻射"タブをクリックします。
- 内部放射率を 0.7
と設定し適用ボタンを押します。
上面輻射

下面境界(wall-bot)
wall-bot境界は熱伝達係数を除き、wall-top境界と同じ設定になるため、 wall-top境界の設定をコピーし、熱伝達係数値のみを後で修正します。
タスクページの下部にあるボタン群からコピーを選択して押します。
ボタン配列

タスクページ中の wall-botを選択し編集ボタンを押します。 熱伝達係数が 10 [W/m2/K]となっているので 3 [W/m2/K]と修正し、適用ボタンを押します。
下面熱

基準条件
タスクページの下部にあるボタン群から"基準条件"ボタンを押します。
重力加速度を設定し、基準密度をゼロと設定します。
基準条件

計算手法
計算手法を選択します。
”空間の離散化”の圧力の指定を”PRESTO!”に修正します。
計算手法

初期化
計算する変数を初期化します。
標準初期化法を選択し”初期化”ボタンを押します。
初期化

修正設定値の確認
今までの設定項目を一覧で確認します。
アウトラインビューの設定ボタンを右クリックし、”修正設定を一覧表示”を選択します。
修正ボタン

グラフィックウインドウに新しく"Modified Settings Summary"タブが表示されます。 表示された内容を確認します。
修正項目表示

レポートの定義
GUIのリボンメニューから解析を選択します。 ここではねずみ表面の最大温度をモニターするようにします。
定義 -> 新規 -> サーフェスレポート -> ファセット最大値
を選択します。 設定フォームから、wall-mouse境界での static temperatureを選択します。
- nameをmax-temp
とし、OKボタンを押します。
リポート定義

解析の実行
設定が終了したので、一度ファイルに保存しておきます。 GUI画面リボンから以下を選択し、ファイル名 test.cas.h5 として保存します。
File -> 書き込み -> ケースとデータ -> test.cas.h5で保存
次に計算実行タスクページを選択し、
- 反復回数を 500
と指定します。 その後”計算”ボタンを押します。
計算実行

この計算は500回反復計算では収束基準に到達しませんが、 解残差が最低値で不変となっていること、 および”ネズミ”の最高温度が一定値に漸近していることから収束していると判断することができます。
解残差の収束履歴

”ネズミ”最高温度の履歴

解析結果の表示
検査面の作成
予め切断面を作成して解析領域内部の表示ができるようにしておきます。 GUIリボンのドメインから
サーフェス -> 作成 -> 等値面
と選択します。
- 新規サーフェス名 : x=0
- 使用する量 : Mesh および X-coordinate
- 等値 : 0
と設定して”作成”ボタンを押します。
等値面作成

同様の手順でy=0面、z=0.1面も作成しておきます。
作成した検査面を以下に示します。
スライス

ビューの作成
GUIリボンのビューからカスタマイズしたビューを作成することができます。
ここでは既存のビューファイル(myview.vw)からビュー設定を読み込みます。
ビュー -> ビュー -> 読み込み -> myview.vwを選択
ビューフォーム

これにより view-iso, view-iso-zoom というビュー設定が利用可能になります。
モデル外形線図
図を表示する際に、外形線を重ねて表示すると分かりやすいので予め外形線表示用のコマンドを登録しておきます。
グラフィック ->メッシュ
から、以下のように設定します
- メッシュ名 : edge-outline
- オプション : エッジ
- エッジタイプ : アウトライン
- サーフェス : Wall境界全て
- 色設定 : 一様で エッジを black
edgeoutlineフォーム

温度コンター図
”ねずみ”表面の温度コンター図を表示してみます。
パラメータを以下のように設定して、”保存/表示”ボタンを押します。
その後、ビューから、“view-iso-zoom"を選択します
ねずみ温度フォーム

“グローバル範囲”をチェックしていないため、 これは表示対象(ねずみ)の局所的な最小、最大温度を使い色表示したものになっています。
頭部が低温で胴体が高温になっていることがわかります
ねずみ温度

同様に、入射熱フラックス(Incident Radiation)コンターを表示すると以下のようになっています。
天板温度が低いため頭部の加熱が小さくなっています。
ねずみ入射熱

次にy=0面の温度コンターを表示してみます。 以下に示すように表示コマンド(temp-y=0)を登録します。
y0温度フォーム

外形線と重ね合わせて表示します。
アウトラインビューからedge-outlineおよびtemp-y=0の2つを選択し、マウス右クリックして”表示”を選択します。その後 ビューから “view-iso"を選択します。
overlap

温度y=0

流速ベクトル図
x=0面上の流速ベクトル図を表示します。
流速強度は色で表示し、ベクトル長さは一定で方向のみを示すようにします。
”ベクトルオプション”ボタンを押し、”固定長さ”をチェックします。
矢印スタイルを"arrow"にし、スケールを0.01とします。
流速x=0フォーム]

流速x=0

コメント
乱流モデル?
今回の計算では、明示的に流速を指定している境界はなく、流速は自然対流の強度に応じて決まることになります。
レーリー数Raという無次元数を使い自然対流の強度を評価することができます。 Raはグラスホフ数Grとプラントル数Prの積で表されます。
$$ Ra=\frac{g\beta\Delta T L^3}{\nu\alpha}=Gr\cdot Pr $$ $$ Gr=\frac{g\beta\Delta T L^3}{\nu^2} $$ $$ Pr=\frac{\mu c_p}{\lambda}=\frac{\nu}{\alpha} $$
ここで、
-
$g$:重力加速度
-
$\beta$:熱膨張率
-
$\Delta T$:代表温度差
-
$L$:代表長さ
-
$\nu$:動粘性係数($=\frac{\mu}{\rho}$)
-
$\alpha$:熱拡散率($=\frac{\lambda}{\rho c_p}$)
-
$\lambda$:熱伝導率
-
$c_p$:比熱
-
$\rho$:密度
-
$L=0.3[m]$
-
$\Delta T=100[K]$
-
$\beta=1/400[1/K]$
-
$g=9.8[m/s^2]$
-
$\nu=\mu/\rho=1.8\times 10^{-5}/0.75=2.4\times 10^{-5}[m^2/s]$
-
$\alpha=\lambda/(\rho*c_p)=0.0242/(0.75 * 1006)=3.2\times 10^{-5}[m^2/s]$
とすると $Ra=8.6\times10^7$となります。
一方、計算結果からレイノルズ数を評価すると以下のようになります。
$$ Re = \frac{\rho U L}{\mu}=\frac{0.75\times0.2\times0.3}{1.8\times10^{-5}}=2.5\times10^3 $$
これらの無次元数は代表値の取り方で値が変わるので注意が必要ですが、層流と乱流が遷移する付近と想像されます。
もし乱流流れになっているとすれば例えば $k\omega SST$ 乱流モデルを使った計算法も考えらます。
external境界
ポスト処理を行う際に、新しく “___:external"という境界が表示されています。
これは、シェル熱伝導モデルを使った際の、肉厚の反対側の仮想境界面を表しています。
例えば、“wal-top"境界は炉内部に向かう面であり、“wall-top-1:external"は外界に向かう面になります。
壁面は肉厚を持つとしているのでこれらの境界温度は異なることになります。
external境界

非定常解析による平均統計量
今回の計算では定常解析の収束基準には到達しないで終了しています。
収束した解を得る方法としては上記のように乱流モデルを使う方法が考えられます。
もうひとつの方法として、非定常解析を行い、時間平均した統計量を求めることが考えられます。
以下に示すように”時間統計量のデータサンプリング”をチェックし、ステップ数を指定して平均流れ場を得ることができます。
統計量サンプリング

熱輻射計算の精度
ここで使用した discrete ordinate(DO)モデルは全ての光学厚さに対応した汎用的な熱輻射モデルになります。
この手法の計算精度は、“角離散化”で指定した分割数に依存します。
高精度の計算が必要な場合、分割数を増やします。
弊社の解析事例
弊社の流体解析事例については、下記のリンクからご覧ください。