噴水のメカニズム
By M.Sato
概要
ヘロンの噴水は、古代ギリシャの発明家ヘロンによって考案された、 外からエネルギーを加えることなく、水が噴き出すように見える噴水である。
ヘロンの噴水は三個のタンクとそれらを接続する三個のパイプから構成されている。
ヘロンの噴水は、一見すると外部からエネルギーを加えることなく動き続けるように見えるが、 最上部のタンクから最下部のタンクに水が流れ込む際の位置エネルギの一部が噴水を発生させる運動エネルギーに変換されており、 水が流れ落ちなくなると噴水は停止する。
例えば、以下の動画で説明されている。
今回は、ヘロンの噴水をAnsys Fluentを用いて、 数値計算によりシミュレーションした結果を示す。
噴水のメカニズム
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構造: ヘロンの噴水は、$3$つのタンク (A, B, C) とそれらを繋ぐ管(D, E, F)で構成されている。 タンクAの上部は開放されており、タンクBとCは密閉されている。
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水の動き: タンクAに水が入ると、重力によりパイプDを通ってタンクCに流れ込む。 タンクC内の水位が上昇すると、中の空気が圧縮され、パイプFを通ってタンクBに押し出される。 タンクB内の空気圧が上昇することで、タンクB内の水がパイプEの噴出口から噴き出す。
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仕組みのポイント: タンクCとタンクBが密閉されており、これらのタンクの間が空気で接続されていることが重要である。 タンクCとタンクB内の水面上の空気圧は同じと考えられるため、 $h_1$と$h_2$の差分が噴水の高さとなる。ベルヌイの式で表すと以下のようになる。
$$ \begin{align} & P_{atm}+\rho_w g h_1 = P_{atm}+\rho_w g h_2 + \frac{1}{2} \rho_w v^2 \\ & v=\sqrt{2g(h_1-h_2)} \end{align} $$
ここで、$\rho_w$は水の密度、$g$は重力加速度、$v$は噴水の噴出速度、$P_{atm}$は大気圧である。
fluentを使った解析
解析領域は上下に並んだ三個のタンクをパイプで接続したものである。
なお対称性を考慮して半分領域のみを解析対象にしている。
形状寸法をおよび初期水面位置(z=0.20はベルヌイの式から導かれる最大噴水高さ)
メッシュ分割
VOF法を使って計算するため、全体を均一のメッシュで分割した。
物性値
解析に使用した物性パラメータを示す。 流体は水と空気であり、ここではいずれも非圧縮性流体とした。
| property | value | unit | description |
|---|---|---|---|
| $\rho_w$ | $1000$ | [kg/m3] | water density |
| $\rho_a$ | $1.2$ | [kg/m3] | air density |
| $\mu_w$ | $10^{-3}$ | [Pa.s] | water viscosity |
| $\mu_a$ | $1.8\times 10^{-5}$ | [Pa.s] | air viscosity |
| $g$ | $9.81$ | [m/s2] | gravity acceleration |
初期条件
初期状態において流速はゼロとした。 また水は下図に示す範囲に充満しているとした。
解析結果
解析は時間刻み$10^{-3}[sec]$で、$1000$ステップ実施した。 各パイプを通過する平均流速をモニターすることで経時変化を調べた。
パイプEを通過する平均流速は$0.6$[sec]付近で最大($0.26$[m/s]程度)となるような結果となった。
この流速は$v=\sqrt{2g(h_1-h_2)}=0.89[m/s]$よりもかなり小さくなっているが、 これはベルヌイの式では損失(摩擦損失、形状損失など)の効果を考慮していないためであると考えられる。
アニメーションの結果を示す。
液面形状
流速ベクトル
流速強度コンター
圧力コンター
以下に最終時刻$1[sec]$における解を示す。
変形版の計算
噴水部のパイプ長さを長くした場合
噴水の噴出する高さは、タンクAとタンクCの水面位置の標高差で決まることになる。
噴出部のパイプが十分長い場合には噴水は発生しない。
モデル説明図で$h=0.11[m]$とした場合を計算してみると確かに水が静止した状態となるような解が得られた。
これより流れがなくエネルギー損失が無い条件ではベルヌイの式が成り立っていることがわかる。
中間のタンク(B,C)の空気を他の流体にした場合
タンクCとタンクBに含まれる空気は密閉された空間内にあり、圧力を伝達するために使われている。
この流体は必ずしも空気である必要はない。
この空気を他の流体で置き換えてみた。
例えば、密度が水の半分($500[kg/m3]$)の流体(ここでは便宜的に"oil"とする)とするとどのような結果になるであろうか?
この場合、置き換えた流体の位置エネルギーも考慮してベルヌイの式を評価する必要がある (実は、空気の場合$\rho_w»\rho_a$なので位置エネルギーを省略していたのである)。
噴水の速度は次式で計算され、空気の場合よりも低下することがわかる。
$$ \begin{align} & P_{atm}+\rho_w g h_1 = P_{atm}+\rho_{oil} g \Delta z +\rho_w g h_2 + \frac{1}{2} \rho_w v^2 \\ & v=\sqrt{2g(h_1-h_2-\frac{\rho_{oil}}{\rho_w}\Delta z)} \end{align} $$
因みに空気を水で置き換えた場合、タンクAの液面以下の全領域が水で満たされることになり、 噴水は生じない(タンクAの水面高さとパイプE内の液面高さが等しくなる位置で停止する)。
計算の結果得られた、噴水の流速の経時変化を示す。
最終時刻(1[sec])での結果図を示す。噴水高さが減少していることがわかる。
まとめ
ヘロンの噴水を対象として計算で再現してみた。
エネルギ損失の影響により、噴水高さはベルヌイの式で推定されるよりも小さくなるが噴水を再現することができた。
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